モバイル・アプリケーションのアクセシビリティーに関する基本事項

アクセシビリティーが高いモバイル・アプリケーションを実現する上でも、情報の表現方法など多くの部分はWebと同様の考え方を適用することができます。ここでは、モバイル・アプリケーション固有のアクセシビリティーに関する基本事項について説明します。

アプリケーション固有の独自ジェスチャーを作らない

スクリーン・リーダーやスイッチ・インターフェースなど、さまざまな支援技術を使用しているユーザーがモバイルアプリケーションを操作できるようにするためには、アプリケーションが提供するすべての機能をモバイルOSの標準ジェスチャーによって利用できるようにする必要があります。標準ジェスチャーは、アクセシビリティーを考慮して設計されており、支援技術を使用した際には、対応する操作方法が定められています。たとえば、標準的なタップのジェスチャーは、スクリーン・リーダー使用時にはダブルタップによって実行可能です。このように、標準ジェスチャーは支援技術との互換性が非常に高く、あらゆるユーザーがストレスなくアプリケーションを利用できるよう配慮されています。

一方、アプリケーションが独自に実装したジェスチャーは、支援技術によって正しく認識されない場合があり、利用環境によっては実行できない場合があります。また、ユーザーがそのジェスチャーを学習・習得する必要があるため、ユーザーにとって利用しにくい場合もあります。

したがって、アプリケーションが提供するすべての機能は、モバイルOSの標準ジェスチャーを使って利用可能であることが必須です。独自ジェスチャーを提供すること自体に問題はありませんが、そのジェスチャーに依存しなければ使えない機能は作るべきではありません。

使用する標準ジェスチャー

モバイルOSの標準ジェスチャーは非常に豊富で、多くの操作方法が存在しますが、ほとんどのユーザーはそのすべてを熟知しているわけではありません。そのため、アクセシビリティーを考慮する際には、なるべくシンプルで直感的な操作をベースに設計することが重要です。

特にスクリーン・リーダーが有効な場合は、1本指による左右方向へのフリックと1本指によるダブルタップといった基本的なジェスチャーだけしか使わなくても、すべての情報にアクセスでき、すべての機能が実行できるように設計することが推奨されます。これにより、ユーザーが追加の学習や複雑な操作を必要とせず、スムースにアプリケーションを使用できます。

また、スクリーン・リーダーが無効な場合においては、タップや長押しといったほとんどのユーザーが既に知っているジェスチャーを前提とすることで、支援技術を使用していないユーザーにも使いやすくなるだけでなく、結果的に支援技術利用時のアクセシビリティーを高めることにもつながります。これらのシンプルな操作は、支援技術によっても問題なく認識され、操作感に一貫性を持たせることができるため、アクセシビリティー全体の向上に寄与します。

もちろん、これら以外の標準ジェスチャーを用いることに問題はありません。しかし、開発チーム内で「どのジェスチャーを使えるようにするか」という前提を共有し、一貫性を保ったUI設計を行うことが大切です。一貫性がないUIは、支援技術を利用しているユーザーやジェスチャーに慣れていないユーザーの混乱を招くことにつながります。

スクリーン・リーダーで利用できるようにする

すべての機能がスクリーン・リーダーを使用して問題なく操作できるようにすることは、モバイル・アプリケーションのアクセシビリティーにおいて非常に重要です。これは、スクリーン・リーダーで適切に利用できるようにしておくことで、他の多くの支援技術でも同様に操作しやすくなる可能性が高いためです。

たとえば、スクリーン・リーダーでコンポーネントに正しくフォーカスが当たるようになっていれば、スイッチ・インターフェースのユーザーも同じくそのコンポーネントに簡単にアクセスできます。また、画面上のすべてのインターフェース要素がスクリーン・リーダーで正確に読み上げられるようになっていれば、音声認識による操作を行うユーザーも、そのコンポーネントを指定して、必要な操作を指示できるようになります。

独自ジェスチャーが不可欠な場合

たとえば自筆の署名を求めるような場合など、独自のジェスチャーの利用が不可欠な場合もあります。ただ、そのような場合も、まずはそもそもその機能の目的を達成するための手段として、そのような実装以外に実現手段がないのかを検討することが重要です。

それでもなお独自ジェスチャーが不可欠な場合は、支援技術が利用されている場合にも問題無く操作できるような実装の工夫が必要です。

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